発達障害のカミングアウト「周囲に伝えるべきか?」――揺れる心に寄り添い、自分らしい選択を見つけるために

「自分が発達障害であることを、周りの人に伝えるべきだろうか…?」
この記事を読んでくださっているあなたは、もしかしたら今、そんな風に一人で悩んでいるのかもしれません。近年、発達障害という言葉は社会に広く知られるようになり、テレビやインターネットでも頻繁に特集が組まれるようになりました。しかし、その一方で、いざ自分のこととなると、「打ち明けることで、何か不利になるのではないか」「誤解されたり、偏見の目で見られたりしないだろうか」といった不安が心をよぎり、一歩を踏み出せずにいる方も少なくないのではないでしょうか。この問題に、唯一の「正解」はありません。大切なのは、誰かの意見に流されるのではなく、あなた自身が納得し、安心して毎日を送れる選択をすることです。
この記事では、発達障害を「伝える」ことと「伝えない」こと、それぞれの側面を深く掘り下げながら、あなたが自分らしい答えを見つけるためのヒントを、優しく、そして具体的に紐解いていきます。焦らず、あなたのペースで読み進めてみてください。

発達障害を取り巻く「今」と、私たちが感じる「リアル」

まず、発達障害が決して珍しいものではないという事実を知っておきましょう。文部科学省が2022年に公表した調査では、公立の小中学校の通常学級に在籍する児童生徒のうち、8.8%に発達障害の可能性があることが示されています。これは、クラスに2〜3人は、何らかの発達の特性を持っている計算になります。
また、近年は「大人の発達障害」という言葉も広く認知されるようになりました。子どもの頃には見過ごされてきた特性が、社会に出てから
• 仕事でのケアレスミスがどうしても減らない
• 職場での人間関係に極端なストレスを感じ、心身ともに疲弊してしまう
• 複数のタスクを同時にこなす「マルチタスク」が苦手で、パニックに陥る
といった困難として表面化し、診断に至るケースが増加しています。これは、発達障害が「特別な誰かの問題」ではなく、誰もが持つ“特性のグラデーション”の一部であるという認識が広まってきた証拠とも言えるでしょう。
しかし、社会の理解が深まる一方で、現場レベルでは未だに根強い偏見や誤解が存在するのも事実です。「怠けている」「努力が足りない」「空気が読めない」といった心ない言葉に傷ついたり、障害名を伝えたことでかえって腫れ物に触るような扱いを受けたりと、辛い経験をした方がいることも忘れてはなりません。私たちは、この理想と現実のギャップの中で、自分にとって最善の道を探していく必要があるのです。

勇気を出して「伝える」選択:その先にある光と影

発達障害について打ち明ける(カミングアウトする)ことは、大きな勇気がいる決断です。しかし、その先には、あなたの可能性を広げる「光」の部分も確かに存在します。

「伝える」ことで得られるメリット(光の部分)

最大のメリットは、「合理的配慮」を受けやすくなることです。合理的配慮とは、障害のある人がない人と同じように社会生活を送れるよう、個々の状況に合わせて提供されるサポートのことです。これは、2016年に施行された障害者差別解消法によって、企業や行政機関に義務付けられています。
具体的な配慮の例をいくつか見てみましょう。

困りごとの例配慮の具体例
聴覚情報処理が苦手(口頭での指示が覚えられない)・指示をメモやチャットなど、文字で伝えてもらう
・会議の内容を録音させてもらう
注意散漫になりやすい(集中力が続きにくい)・パーテーションのある静かな座席を用意してもらう
・ノイズキャンセリングイヤホンの使用を許可してもらう
感覚過敏がある(特定の光や音が極端に苦手)・照明の明るさを調整してもらう
・電話が少ない席に移動させてもらう
マルチタスクが苦手(複数の作業を同時に進められない)・一度に指示する業務を一つに絞ってもらう
・業務の優先順位を明確にしてもらう

こうした環境調整によって、これまで「なぜ自分だけできないんだ」と責めていた状況が改善され、本来持っている能力を発揮できるようになったという方は少なくありません。何より、「できないこと」を一人で抱え込み、自分を責め続ける苦しみから解放され、自己肯定感を回復していく大きな一歩となるのです。

「伝える」ことの難しさとリスク(影の部分)

一方で、伝えることには現実的なリスクや困難も伴います。これを「影」の部分とするならば、私たちはその存在も正しく理解しておく必要があります。
• 仕事の機会が狭まる可能性:本人の能力とは関係なく、「この仕事は任せられないだろう」という思い込みから、重要なプロジェクトから外されたり、キャリアアップの機会を制限されたりするケース。
• 過剰な配慮による孤立:良かれと思って過度に気を遣われ、逆にコミュニケーションが取りづらくなったり、職場で孤立感を深めてしまったりすること。
• 評価への不安:「障害があるから」というフィルターを通して見られ、努力や成果が正当に評価されないのではないかという恐れ。
• アウティングのリスク:自分が伝えた相手から、許可なく第三者に情報が漏れてしまうこと。これは本人の尊厳を深く傷つける行為です。
特に、まだ発達障害への理解が十分でない環境では、伝えた側の善意が、受け取る側の知識不足によって、かえってマイナスに働いてしまう悲しい現実もあります。「言う」という選択をする際には、「誰に、どのタイミングで、どこまでの情報を、どのように伝えるか」を慎重に考える必要があります。

「伝えない」という強さ:自分を守るための大切な戦略

発達障害について、あえて「伝えない」という選択をする人も大勢います。これは決して、逃げや偽りではありません。むしろ、自分自身を守り、社会で穏やかに生きていくための、積極的で力強い「戦略」と捉えるべきです。

なぜ「伝えない」を選ぶのか

• 現時点で大きな困りごとがない:自分の特性を自己分析し、工夫や努力によって仕事や生活をうまくコントロールできている場合、あえて伝える必要性を感じないかもしれません。
• 説明することへのエネルギー負担:発達障害の特性は多様で、一人ひとり異なります。それを他者に理解してもらうためには、多くの時間と精神的なエネルギーを要します。その負担を避けたいと感じるのは自然なことです。
• 過去のネガティブな経験:以前に打ち明けたことで、傷ついたり、不利益を被ったりした経験があると、再び伝えることに臆病になってしまうのは当然です。その心の傷を守るための、正当な自己防衛と言えます。
• 「個人」として見てほしいという願い:「発達障害」というラベル(レッテル)を貼られることで、本来の自分自身を見てもらえなくなることを懸念する声も多く聞かれます。診断名ではなく、一人の人間として向き合ってほしいという切実な願いです。
このように、「伝えない」という選択は、様々な背景や思いに基づいた、個人の尊重されるべき権利なのです。

「伝えない」ことの現実

障害を非開示で働く「クローズ就労」を選んだ場合、合理的配慮を法的な義務として求めることは難しくなります。そのため、仕事で困難が生じた際には、障害特性を理由にするのではなく、「こういう作業は少し苦手なので、こうさせてもらえると助かります」といった形で、個人の能力や工夫の範囲として協力を求めるスキル(セルフアドボカシー)が重要になります。
また、すべてを一人で抱え込むことで、孤独感や精神的なストレスが大きくなる可能性もあります。「伝えない」と決めた場合でも、職場以外に、悩みを共有できる家族や友人、あるいは専門のカウンセラーや当事者会など、安心して本音を話せる場所を確保しておくことが、心の健康を保つ上で非常に大切になります。

後悔しない選択のために:自分と向き合う4つのステップ

では、自分にとってより良い選択をするためには、具体的にどうすればよいのでしょうか。ここでは、心の整理をするための4つのステップをご紹介します。
ステップ1自己理解を深める
まず、あなた自身の特性について、客観的に理解を深めましょう。専門機関で受けた心理検査(WAISなど)の結果を読み解いたり、日々の生活の中で「得意なこと」「苦手なこと」「ストレスを感じること」「安心できること」を具体的に書き出してみたりするのがおすすめです。これは、あなただけの「取扱説明書」を作る作業です。このトリセツが明確であるほど、他者に協力を求めやすくなります。
ステップ2:伝える目的を明確にする
次に、「なぜ、伝えたいのか」という目的を自分自身に問いかけてみましょう。「具体的な配慮がほしい」のか、「ただ、自分のことを知っておいてほしい」のか、「精神的な負担を軽くしたい」のか。目的がはっきりすれば、伝えるべき内容や相手も自ずと見えてきます。
ステップ3:伝える範囲と内容をシミュレーションする
「誰に、どこまで話すか」は、グラデーションがあっていいのです。例えば、以下のように段階的に考えることができます。
• レベル1:診断名は伏せて、「音に敏感なので、静かな場所だと集中できます」のように、具体的な特性と希望する配慮だけを伝える。
• レベル2:信頼できる上司や同僚一人だけに、診断名を明かし、具体的な相談をする。
• レベル3:人事部や産業医など、会社の公式な窓口に相談し、組織としての配慮を求める。
• レベル4:チームメンバー全員にオープンにし、理解と協力を求める。
いきなりレベル4を目指す必要はありません。まずはリスクの少ないレベル1から試してみるなど、スモールステップで進めるのが安心です。
ステップ4:信頼できる相談相手を見つける
一人で決断しようとせず、信頼できる第三者に相談しましょう。家族や親しい友人だけでなく、発達障害者支援センターや就労移行支援事業所、カウンセラー、当事者会など、客観的で専門的な視点からアドバイスをくれる存在は、あなたの大きな支えとなります。選択肢を複数持つことで、心に余裕が生まれます。

「発達障害であることを伝える・伝えない」で悩まない社会を目指して

ここまで、「伝える・伝えない」という二項対立で話を進めてきましたが、本来、私たちが目指すべきなのは、そもそもそんなことで悩む必要のない社会です。本当に大切なのは、診断名や障害の有無ではありません。一人ひとりが持つ「得意」と「苦手」が尊重され、「少し手伝ってもらえませんか?」という声が、特別なことではなく、ごく自然に交わされる職場やコミュニティです。
• メガネをかける人に「視力が低い」というラベルを貼らないように。
• 左利きの人が、左利き用のハサミを当たり前に使えるように。
発達障害の特性も、それと同じように、個人の一つの特徴として受け止められる。誰もが自分の苦手なことを無理に克服しようとするのではなく、得意なことで貢献し、苦手なことは互いに補い合える。そんな「心理的安全性」の高い環境が広がれば、「言うか、言わないか」という重い問いは、自然と解消されていくはずです。

おわりに:あなたの人生は、あなたのもの

発達障害を伝えるか伝えないか。この問いは、あなたの人生のとても個人的で、繊細な領域に触れるものです。だからこそ、世間の「普通」や、誰かの「正解」に自分を合わせる必要は一切ありません。今のあなたにとって、一番心が穏やかでいられる選択。一番自分に優しくなれる選択。それを何よりも大切にしてください。そして、その選択は、あなたのライフステージや環境の変化によって、いつ変わってもいいのです。
一度「言わない」と決めたからといって、永遠にそうしなくてはならないわけではありません。逆もまた然りです。どうか、自分を責めないでください。あなたはこれまで、たくさんの見えない努力を重ね、懸命に生きてきたはずです。その頑張りを、まずあなた自身が認めてあげてください。あなたの人生は、他の誰のものでもない、あなただけのものです。あなたが心から安心して、自分らしく輝ける道を選べることを、心から願っています。

《監修者》この記事を書いた人

ドクターノジェとジャパンセラピスト代表理事の田中

田中 幸恵
一般社団法人ジャパンセラピスト検定機構代表理事
耳介療法士・心理カウンセラー・夫婦カウンセラー
国際耳介療法学会会員
耳つぼの講師

カウンセリング歴21年。
2014年に耳介療法の元祖Dr.ポール・ノジェの子息であるDr.ラファイエル・ノジェ(現在国際耳介療法学会 CEO)より直々に耳介療法を学ぶ。耳の不思議さと奥深さに魅せられ、もっと多くの方に広めたいという想いから、今まで学んでいた中国式耳つぼ療法とフランス式耳つぼ療法を融合した独自メゾット「新フランス式オリキュロセラピー」を完成。
ご家族や大切な人の健康に貢献したい方、セラピストとしてさらに結果を出したい方に「耳つぼ療法」を通してミラクルを起こすお手伝いをしている。

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